【なぜか好かれる人の秘密】彼ら、彼女らは「好かれよう」としていない

大木 幸福論

序章:「ねえ、これって、おかしくない?」日常のワンシーンから始まる謎

あなたの周りにも、いませんか?こういう二人の人物が。

一人は、Aさん。いつもニコニコしていて、誰にでも話を合わせ、頼まれごとは決して断りません。飲み会には必ず参加し、SNSではみんなの投稿に「いいね!」を押して回る。誰からも嫌われていないように見えるけれど、なぜか、Aさんの周りにはいつも、うわべだけの浅い人間関係しかないように見えます。

もう一人は、Bさん。少し無愛想で、自分の意見をはっきりと口にします。無意味な同調はせず、興味のない誘いはきっぱりと断ります。一見すると「付き合いが悪い」「ちょっと怖い」と思われがち。しかし、なぜかBさんの周りには、数は少ないけれど、彼を心から信頼し、深い絆で結ばれた「本物の仲間」がいるのです。

不思議だと思いませんか。
私たちは子供の頃から「みんなと仲良くしなさい」「人に親切にしなさい」と教えられてきました。それなのに、なぜ、誰にでも好かれようと必死に努力しているAさんのような人が実質孤独で、「好かれよう」とすら思っていないようなBさんのような人が、深い信頼を勝ち得ているのでしょうか。

この、人間関係における最大の「謎」と「逆説」。
これは、単なる性格の違いの話ではありません。その裏には、人間関係の本質に関する、とても面白くて、大切な秘密が隠されています。これから、この謎を一緒に解き明かしましょう。

第1部:「好かれたい」の正体は、こうなっていた!心の「からくり」を暴く

まず、なぜ私たちはこんなにも「人に好かれたい」と思ってしまうのでしょうか。その理由は、私たちの心の中に、大昔から組み込まれている、ある「からくり」に隠されています。

私たちの祖先が、まだマンモスと戦っていたような時代を想像してみてください。その頃、たった一人で生きていくことは「死」を意味しました。群れから追い出されれば、食料も手に入らず、外敵から身を守ることもできません。

つまり、「群れの仲間から嫌われないこと」は、命を守るための最重要ミッションだったのです。
この「嫌われることは危険だ」という記憶は、私たちの心に、今でも「仲間外れになりたくないアラーム」として、しっかりと備わっています。だから私たちは、誰かの顔色をうかがい、「嫌われたかな?」と不安になると、胸がざわついてしまうのです。これは、私たちの心が弱いからではありません。生き残るための、ごく自然な本能なのです。

しかし、このアラームが、現代社会では時々、誤作動を起こしてしまいます。アラームが鳴りっぱなしになると、私たちは「自分」というものを見失ってしまうのです。
具体的には、Aさんの前ではAさんの意見に賛成し、Bさんの前ではBさんの意見に賛成する、という行動をとってしまいます。目の前の相手から嫌われないための、短期的な作戦です。

ですが、周りから見ると、その人はどう見えるでしょうか。
「あの人は、一体本当は何を考えているんだろう?」
「誰にでもいい顔をする、自分の意見がない人だ」
「結局、信じていいのか分からない」

皮肉なことに、全ての人に好かれようとすればするほど、その場しのぎの態度が積み重なり、結果として、誰からの「信頼」も得られなくなってしまうのです。風見鶏は風の向きを教えてくれますが、嵐の時に頼りになるのは、どっしりと根を張った一本の木ですよね。それと同じことです。

一方で、「好かれようとしない人」が信頼されるのは、まさにその逆の現象が起きるからです。彼らには「自分」という揺るぎない軸があります。だから、言うことやることが一貫していて、ブレません。これは、相手にとって「この人は裏表がない」「気分で態度を変えたりしない」という、絶大な安心感と信頼に繋がります。彼らの「ノー」は、彼らの「イエス」と同じくらい、信頼できるのです。

第2部:なぜ、今「それ」が起きるのか?時代という名の巨大な「舞台装置」

第1部で明らかにした心のからくりは、昔からありました。しかし、なぜ「今」の時代に、「好かれようとしない」人の価値が、これほどまでに見直されているのでしょうか。その理由は、私たちが生きるこの社会という「舞台装置」が、この数十年で劇的に変化したからです。

舞台装置の変化、その一つ目は「SNSの登場」です。
私たちは今、かつてないほど多くの「つながり」を持つことができるようになりました。フェイスブックの友達の数や、インスタグラムのフォロワーの数で、自分がどれだけ人気者かが数字で見える時代です。

しかし、その何百、何千というつながりのほとんどは、極めて「浅い」ものです。私たちは、その浅い関係を維持するために、本当の自分を隠し、キラキラした自分を演じ、「いいね」を押し合うという、終わりなきゲームに少し疲れ始めています。

多くの人が、うわべだけの「浅いつながり」の海に溺れそうになりながら、心の底では、たった一つでもいいから、「本物の、深い絆」を渇望しているのです。そして、その本物の絆は、「好かれよう」と自分を偽る人間ではなく、自分に正直な人間との間にしか生まれないことを、誰もが薄々気づき始めています。

二つ目の変化は、「働き方」です。
かつて、私たちの価値は、どの会社に「所属」しているかで決まる部分が大きくありました。組織のルールに従い、周りと歩調を合わせることが、最も賢い生き方でした。

しかし、終身雇用という考え方が当たり前ではなくなり、誰もが自分らしいキャリアを選ぶ時代になりました。今、私たちに求められているのは、組織の歯車として生きることではなく、「あなた個人は何者で、何ができるのか」ということです。

この「個人の時代」においては、周りに合わせて自分の色を消すことは、自分の価値を下げることにつながります。むしろ、他人とは違う「自分だけの意見」や「自分らしい生き方」を持つことこそが、あなたの価値を高め、あなたという人間に本当に興味を持ってくれる仲間を引き寄せる、最強の磁石になるのです。

終章:「明日から、何が見える?」新しい「メガネ」を手に入れる

さて、この記事を通して、私たちは「人間関係」というものを見るための、新しい「メガネ」を手に入れました。

このメガネをかければ、誰にでもいい顔をして、たくさんの「友達」に囲まれているように見える人が、実は、本当の自分を分かってくれる人がいないという、深い孤独を抱えているのかもしれないと、想像できるようになります。

そして、一見とっつきにくく、孤立しているように見える人が、実は、自分自身への揺るぎない信頼と、数少ない本物の仲間との深い絆に支えられているのだと、その本質を見抜けるようになります。

無理に周りに合わせて、疲れてしまっていた自分の行動も、「ああ、自分はただ、仲間外れになるのが怖いという、大昔からのアラームに従っていただけなんだな」と、少しだけ優しく見つめ直せるようになるかもしれません。

「すべての人から好かれる」という、不可能なゲームから降りてみること。
そして、自分に正直に生きるという、少しだけ勇気のいる、しかし最高にやりがいのある道を歩み始めること。

その先には、あなたがこれまで味わったことのない、驚くほど軽やかで、自由で、そして心温まる人間関係が、必ずあなたを待っているはずです。

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